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山形地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決

理由

一  本案前の主張について

被告らは、原告らが本件委任契約締結の違法性を主張していない旨主張するが、原告らは本件委任契約を締結したことが違法である旨主張していると解されるから、被告らの右主張は理由がない。

また、被告らは、補助参加は許可されたのであるから訴えの利益がない旨主張するが、仮に、本件委任契約の締結及び弁護士料の支出が違法であった場合、補助参加が許可されたことで右の違法性が治癒されるかどうかという議論はありうるとしても、訴えの利益までなくなるとは解することはできず、この点に関する被告らの主張も理由がない。

なお、被告らは損害がない場合は訴えの利益がない旨主張し、水戸地裁昭和四八年八月二三日判決(行裁集二四巻八、九号八二八頁)とその控訴審である東京高裁昭和五九年八月九日判決(行裁集二八巻八号八二三頁)を引用する。しかしながら、右の各判決例は地方公共団体に損害がないことを理由に請求を棄却したものであって、訴えの利益がないことを理由に請求を却下したものではない。

したがって、被告らの本案前の主張はいずれも理由がない。

二  請求原因について

1  請求原因1、2、6の各事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、同3ないし5の事実について検討する。

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(1)  前記当庁平成二年(行ウ)第三六号事件について、遊佐町は、同事件の被告菅原与喜夫を補助する参加の申立てをすることにした。

そこで、町は、右事件について右被告の訴訟代理であった赤谷弁護士に右補助参加の件について相談した。

(2)  町と赤谷弁護士は、相談した結果、町が赤谷弁護士に対し補助参加の件について訴訟委任することにしたが、当時地方公共団体が長を補助する参加の申立てが却下された決定例があったため(東京高裁昭和五八年九月三〇日決定行裁集三四巻九号一六九七頁、原審宇都宮地裁昭和五八年七月四日決定)、実際上裁判所が補助参加の申立てを受理してから委任契約を締結し弁護士料を支出したほうが妥当であると判断した。

なお、被告らは、補助参加の申立てが不適法であることを理由として却下した決定例として東京高裁昭和五六年九月三〇日決定があると主張するが、これは、地方公共団体が長のためにする補助参加の申立てを、民訴法六四条に定められた訴訟の結果についての利害関係を有しないことを理由として却下した原審の決定を正当であると判示した決定例(前記東京高裁昭和五八年九月三〇日決定)の誤りであると解され、念のために付言すると、右の決定は、形式的な要件を欠くことを理由として却下したものでなく、実体的な要件を欠くことを理由として却下したものであると解される。

(3)  そこで、町は、平成二年一二月一一日、当庁に対し補助参加の申立てをするとともに、平成三年一月二一日、当庁が町の本件補助参加申立てを受理したことを証明する旨の書面の交付を受けた後、町と赤谷弁護士は、同月二三日、前記補助参加の件に関する本件委任契約を締結し、同月三一日、右契約に基づき弁護士料一〇〇万円を支出した。

(4)  右弁護士料については、前記事件で対象とされた当初の損害賠償金額四八〇〇万円をもとに、山形県弁護士会報酬等基準規程(昭和六〇年三月一五日施行)に基づき算定したところ、着手金が二七四万五〇〇〇円であると算定されたが、町の財政を考慮して、町と赤谷弁護士は、着手金を一〇〇万円とする旨合意した。

(5)  なお、当庁は、同年七月一五日右補助参加を許可する旨の決定をした。

3  右の各事実によっては、本件委任契約の締結及び弁護士料(着手金)の支出について、被告が裁量権の範囲を逸脱または濫用した事実を認めるに不十分である。

さらに検討すると、まず、補助参加が許可される前に、補助参加を許可したことを理由として本件委任契約を締結し、弁護士料を支出した旨の原告らの主張については、〔証拠略〕によると、第二七八回遊佐町議会定例会(平成二年一二月二一日開催)において、助役が、裁判所が補助参加を認めた場合弁護士料一〇〇万円を支出することができると発言していること、〔証拠略〕によると、第二八〇回遊佐町議会定例会(平成三年三月七日開催)において、町長である被告が裁判所が補助参加を認めた旨の通知があった旨発言していることなどの事実が認められ、これらの事実によると、当庁が同年一月二一日付けの補助参加の申立てを受理したことを証明する旨の書面を町が受け取った時点で、被告らは、補助参加が許可されたと判断したと一応認められる。右の証明書は、裁判所が補助参加の申立てを受理したことを証明したものにすぎず、補助参加の申立てを許可したわけではもちろんないし、補助参加の申立てが形式的な要件を欠き不適法であることを理由として却下決定することもありうるのではあるが、法律に精通しない被告らは、単に許可決定があったと誤解したにすぎないと認められる。そして、ほかに第三者に利益を与える目的などがあるため許可決定があった旨虚偽の事実をもとに本件委任契約を締結したなどの事情が認められない本件では、前記事実だけでは、被告が裁量権の範囲を逸税または濫用したとは認められない。したがって、原告らのこの点に関する主張は理由がない。

次に、原告らは、補助参加を許可する決定があるまで弁護士料(着手金)を支出してはならない旨主張する。しかしながら、被告が主張するとおり、民事訴訟法の規定(六八条一項二項等)によれば、裁判所が補助参加を許可する前でも、補助参加人は訴訟行為をすることができるのであるから、補助参加を許可する決定がされていない場合でも、委任契約を締結して弁護士料(着手金)を支出することができると解される。したがって、原告らのこの点に関する主張は理由がない。

また、原告らは、弁護士料(着手金)が高額である旨主張する。しかし、前記のとおり、町と赤谷弁護士は、山形県弁護士会報酬等基準規程に基づき、それに定められた基準内で着手金額を合意したこと、乙第一号証によれば、補助参加の場合の弁護士料の算定は必ずしも明確ではないこと、仮に同規程一八条の訴訟事件に含まれるとしても、その基準となる経済的利益の価額がやはり明確でないこと、さらに住民訴訟における被告を補助する参加申立ての経済的利益が同規程一七条により算定不能であるとしても、同条二項により価額を増減することができる(同規程四条二項も同旨の規定である。)ことなどの事実が認められ、また、原告らも右規程自体の合理性は争っていないが、右の弁護士料の算定方法は必ずしも不合理であるということはできない。そうすると、これらの事実だけでは、右の着手金が不当に高額であるとは到底認められない。したがって、原告らのこの点に関する主張も理由がない。

三  以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本朝光 裁判官 杉本正樹 齋藤清文)

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